静岡県島田市の皮膚科 医療法人社団研成会 伊藤医院 【皮膚科・アレルギー科・泌尿器科・美容皮膚科・肛門科】
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 帯状疱疹ワクチンの新知見
投稿:伊藤宗成
帯状疱疹を予防するワクチンが定期接種化されました。
すでに行政から接種の案内が届いた対象者の方もおられるかと思います。

正直に申し上げて、今まで私は「帯状疱疹ワクチンの定期接種化」には否定的な立場でした。

なぜならば、
帯状疱疹が重篤になると、痛みを残す可能性があるとはいえ、生命に関わることは極めて稀である。
50歳以上になると3人に1人が発症するとされているが、発症したから必ず重篤化するとは限らない。
早期に治療介入できれば、痛みが残る可能性を下げることができる。

そのため、定期接種化せずとも、受けたい方が受ける「任意接種」で十分と考えていました。

ところが、つい先日4月2日に「帯状疱疹ワクチンの接種により、認知症のリスクを20%も低減できる」という非常に興味深い研究結果が、世界的に権威のある科学雑誌のひとつ”Nature”に発表されました。

Eyting M. Xie M. Michalik F. et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature (2025).
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08800-x

以前から帯状疱疹の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルスをはじめとした、ヘルペスウイルスの仲間が、認知症の発症に関与しているという可能性は知られていて、ワクチンが認知症の発症リスクを抑えるのではないかと考えられていたようですが、明確な答えは出ていませんでした。

細かい点は省きますが、今回のイギリス・ウェールズでの研究では、ワクチン接種を受けなかったグループのうち、7年間で認知症と新規に診断された方が17.5%だったのに対して、ワクチン接種を受けたグループでは14.0%で、3.5%も低下していました。
これだけみると小さい数字に感じられるかもしれませんが、相対リスクは20%も低下しているということになります。
ただし、この効果は「女性でより高く、男性では低い」傾向にあるようです。

こういった研究は様々なバイアス(研究対象の偏り)が生じるため、信頼度が低いものも多いですが、実際に論文を読んでみると、以下のような点から、今までの研究と比較しても、かなり信憑性が高いものになっています。
ウェールズの政策により、ある生年月日を境にして、公費でのワクチン接種対象者を決めたため、ワクチンを受けた方と受けていない方が明確に分かれたこと。
約28万人を7年間に渡って追跡した、今までにない大規模・長期の追跡研究であること。

また、この研究で用いられたワクチンは「乾燥弱毒性水痘ワクチン」のようですが、新たなワクチン「シングリックス®」でも同様の効果が示されています。
Taquet M. Dercon Q. Todd J.A. et al. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nat Med 30 2777–2781 (2024).
https://doi.org/10.1038/s41591-024-03201-5

ヘルペスウイルスと認知症の関係はまだすべて解明されていませんが、体内に潜伏しているウイルスの再活性化が、以下のようなメカニズムで認知症発症に関与しているとのデータがあります。
ウイルスの再活性化により慢性的な炎症が生じ、神経変性を促進させる
脳血管にウイルス感染を生じると、血流障害を引き起こし、認知機能が低下する可能性がある
そのため、ワクチン接種によりウイルスの再活性が抑えられ、認知症リスクを低減させると考えられています。

またその他にも、様々なワクチンで、認知症をはじめとした神経疾患の予防効果が報告されているようです。
これは、ワクチンによって免疫システムが賦活化し、疾患の原因となる異常タンパクの蓄積を防ぐとの可能性も考えられているようです

インフルエンザワクチンは認知症のリスクを低減するが、パーキンソン病のリスクとは関連がない。
Zhao H. Zhou X. Fu K. et al. Prospective cohort study evaluating the association between influenza vaccination and neurodegenerative diseases. npj Vaccines 9 51 (2024).
https://doi.org/10.1038/s41541-024-00841-z

百日咳、帯状疱疹、肺炎球菌のワクチンは、認知症のリスクを低減する。
Harris K Ling Y Bukhbinder AS et al. The Impact of Routine Vaccinations on Alzheimer’s Disease Risk in Persons 65 Years and Older: A Claims-Based Cohort Study using Propensity Score Matching. Journal of Alzheimer’s Disease. 2023;95(2):703-718.
https://journals.sagepub.com/doi/10.3233/JAD-221231

家族がひとりでも認知症になれば、本人はもちろんのこと、その介護者にも多くの負担がかかる事になります。
また、認知症の治療・管理に、莫大な医療費・介護費、そして人的資本が費やされることを考えると、安価なワクチンで少しでもリスクが下げられるのであれば、ご高齢の方が多い島田市では、帯状疱疹ワクチンは良い選択肢なのではないかと思います。

以上のことから、私は従来の否定的な考えを改めることにしました。

ただし、ワクチンの効果には個人差もありますし、副作用がないわけではありません。
定期接種化されたとはいえ、一定の自己負担額は発生致します。
帯状疱疹ワクチンの詳細は「診療内容(自費診療)」に記載されております。
「乾燥弱毒性水痘ワクチン」と「シングリックス®」の違いなどもまとめてありますので、ひとつの観点から接種を決めるのではなく、様々な側面からご自身の判断で接種の是非をお決めください。
迷われるようでしたら、受診のうえ、ご相談ください。
申し訳ありませんが、診療業務がありますので、お電話でのご相談には対応しかねます。

接種をご希望の方は、「乾燥弱毒性水痘ワクチン」か「シングリックス®」、いずれのワクチンを打つか、お決めになった上で、お電話もしくは診察の際に予約をなさってください。

またこの記事により、電話が混雑しかかりづらいことも予測されますので、ご配慮いただければ幸いです。

よろしくお願い致します。

2025年4月6日(日)

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2023.6.30



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